タコの卵

どこまで我慢するのが身近な恐怖なのか

鉄道がない沖縄県民が読む「事故の鉄道史」

清水記者にとんでもない本を進められた。

「てつはさ~山の遭難本読んでるじゃん?じゃあ鉄道の事故本も読みなよ」

 

事故の鉄道史―疑問への挑戦

事故の鉄道史―疑問への挑戦

 

確かに登山した事ないし、沖縄に登山するような山らしい山はない。

でも登山の道迷い遭難や山岳レスキューや山小説はたくさん読んでいる。

だからって鉄道がない沖縄で鉄道の事故本!?

 

しかし「なぜ?」に弱い俺は疑問への挑戦と言う副タイトルと山の事故と鉄道の事故も何処か似ているかもしれないな…とか淡い気持ちで本書を手にした。

 

これは鉄道がない島に住む沖縄県民目線「事故の鉄道史」の読書感想文である。

 

目次

鉄道専門用語がわからない

内地に住んでいて鉄道に乗りまくっている、鉄オタならすんなり入ってくるような用語も電車に慣れ親しんでない沖縄県民からしたら謎の言葉だ。

 

汽車運転方タライブル、タブレット、ヴァキュウムホース、鉄道省、ボギー車、真空ブレーキ、スイッチバック、車軸配置1D1、ガソリンカーの三重連、タイホン……。

 

専門用語が多いので一々インターネットで検索して調べる始末。

内地の人なら上記の言葉がわかりスラスラ本を読めるのだろうか?

とにかく読むのに苦戦した。用語がわからないと納得いかないタイプなので頭に入れて読みたいので時間がかかった。

そのおかげで電車に全く乗ってないし、鉄オタでもないのにタブレットが見たくなってしまった。

 

鉄道事故って思ったより多い

飛行機事故や車の事故は頻繁にTVやニュースで流れるが、鉄道事故はよくわからない。

よくわからないと言うが知っている鉄道事故は「福知山線脱線事故」ぐらいだ。

知っていると言っても原因もよくわかってないし、とにかくそのレベルで鉄道は事故すくないんだなと思っていた。だって本当に鉄道事故を聞いてなかったから。

 

本書「事故の鉄道史」を読むとその認識がひっくり返った。

 

めちゃくちゃ事故起こってる。

なんなら恐ろしい数の人が亡くなってるし恐怖の乗り物なんじゃ!?って思うレベルで事故ってる。みんな平気な顔して電車乗ってるけど……何か起こったら大変だぞ!?と思う。沖縄にはゆいレールと言うモノレールが走っているが、モノレールの事故も調べてみると恐ろしい事になるかもしれない。

 

事故の割合はほとんど人災で自然災害も含むのだが、未然に防げた事故が多い。

不正を行っていたり、酒を飲んだり錯乱したりそもそも事故が起こるようなシステムになっていたりと様々だ。

 

鉄道事故から歴史を知る

鉄道省って省があった事を知ったが、一番びっくりしたのは

事故が起こっても鉄道会社が治療費を払うのは当然じゃなかった事だ。

戦前は個人が払うのが普通で鉄道=国家は個人の治療費など払うのが常識じゃなかった。

これは恐ろしすぎる。何か起こっても治療費すら払ってくれないとか。

 

また、責任の転換及び修正が頻繁に行われている事も驚愕した。

鉄道省の時代では事故を起こした人物すら捻じ曲げて他人が事故を起こした人になっているのだ。

鉄道省に不利な事は裁判でも、もちろん隠す。そのせいで事故の本当の原因が歪められて伝わる事は非常によくない。本書はその点を踏まえて本当の原因は何か?と追求していくのだから面白い。

 

戦争時には「日本に不利な事を報道するのは利敵行為」と鉄道事故そのものを報道しない体制になっている。決戦輸送だ!止めてはならぬ!が合言葉のせいで三台の列車が衝突する恐ろしい事故まで起こっている。

本書の第12話「土浦、知らされなかった戦中事故 三河島事件は避けられた」が詳しい。

 

余談だが現在の日本でもリアルタイムで起こっている事であり公文書改ざんを平気でやっている政府は本書を是非とも読んで反省して欲しい。

 

事故があるから今の電車がある

事故の原因は様々で人災、災害あるのだが、事故の反省点を踏まえて今の電車になった所も勉強になった。

昔の列車はガソリンカーや木造車。ガスカー、気動車など、現在は見かけない旧式の列車だ。

 

ガソリンカーは読んで字の如し。ガソリンで走る列車。それを3列繋げて運転手も各車両に3人用意して協調運転していたらしい。

しかしガソリンカーなので一度何か起きてしまうとガソリンに引火して大惨事になることは誰でもわかるだろう。

本書の第10話「炎上したガソリンカー 西成線、安地川口の転換期」で詳しくガソリンカーの歴史が書かれているので興味がある人は読んでほしい。

 

木で作った列車は考えただけで危険だ。鉄道がない沖縄県民でもわかる。

第7話「国際特別急行列車の遭難 車体鋼体化の一里塚」では「鋼製客車製造促進の転機」とも言われる事故が起き、木製車の事故を教訓に木製車から半鋼製客車と進んで今につながる鋼鉄車に発展した歴史がある。

 

トンネルで窒息なんて考えたこともなかった。

第8話「柳ヶ瀬トンネルの功罪 機関車乗務員の窒息事故」では機関車特有の事故がトンネル内で起き、乗務員が無残にも窒息死する事件が起こる。

 

安全工学では「事故は安全対策の教訓の場」といわれているらしい。

数々の尊い犠牲の果てに今の所安全だと思われる電車が毎日走っているのだろう。

 

 

疑問への挑戦

事故の鉄道史は当時の歴史事情を知ることもでき、事故を教訓に今を生きる事ができる貴重な一冊なのだが、一番大事なことは

疑問があるなら調べる

ことなんじゃないかと思った。

副タイトル疑問への挑戦はまさにそうで、鉄道事故に限らず疑問があれば挑戦して調べる姿勢こそが大事だ。

 

山の遭難はなぜ起きる?

これが最初の疑問だった。なのでヤマケイ文庫の遭難本を読み漁り遭難に対する知識をつけていった。

鉄道の事故はどうやっておきる?

その疑問に挑戦したのが本書「事故の鉄道史」。

本を勧めてくれた清水記者の言葉に「知ろうとしないことは罪だ」がある。

疑問があれば自ら知ろうとする姿勢が本質で、沖縄に山がないからって鉄道がないからって知らないで良い理由にならない。

 

むしろ内地に住んで電車を利用している人にこそ「事故の鉄道史」はオススメしたい。

当たり前のように乗っている電車に様々な事故が起き、どんなドラマがあって現在走っているのか何も考えないのは味気ないし、人災がなぜ起こるのかも詳しい。

 

本書を読んで疑問への挑戦を続けていこう。