タコの卵

どこまで我慢するのが身近な恐怖なのか

【レビュー】読んでいない本について堂々と語る方法は本好きなら必ず読むべき一冊

「私は批評しないといけない本は読まないことにしている。読んだら影響を受けてしまうからだ。」(オスカー・ワイルド)

 

いきなり刺激的な見出しから始まる本書。

タイトルが「読んでいない本について堂々と語る方法」と挑発的なので内容も過激な読書本かな?と思ったら全く読み始める前の想像と違ってひっくり返った。これほど読む前と読んだ後の感想が違う本は初めてだ。所謂ありふれたハウツー読書本かと期待すると僕みたいに腰抜かす。

本の内容初回には

欧米で話題沸騰“未読書コメント術”。本は読んでいなくてもコメントできる。いや、むしろ読んでいないほうがいいくらいだ…大胆不敵なテーゼをひっさげて、フランス論壇の鬼才が放つ世界的ベストセラー。これ一冊あれば、とっさのコメントも、レポートや小論文、「読書感想文」も、もう怖くない。

こんな事が書かれてるが事実とは異なる。

この本を読んだからってレポートや小論文。とっさのコメントができるようになるわけじゃあない。むしろ唸ってしまう。「あの本読んだ?」と単純な質問に対しても「うう~ん。読んだといえば読んだんだけど……」 と変な答え方してしまう。

そう。この本を読んだが最後……あなたの読書ライフを一変させてしまう可能性があるのだ。興味がある方は危険なので注意して読んで欲しい。必ず裏切られるから。

 

目次で読んだ気になれる

I 未読の諸段階
1.ぜんぜん読んだことのない本
2.ざっと読んだ(流し読みをした)ことがある本
3.人から聞いたことがある本
4.読んだことはあるが忘れてしまった本

II どんな状況でコメントするのか
1.大勢の人の前で
2.教師の面前で
3.作家を前にして
4.愛する人の前で

III 心がまえ
1.気後れしない
2.自分の考えを押しつける
3.本をでっち上げる
4.自分自身について語る

 

本書の目次が凄い。目次だけでなるほど~と知った気になれてしまう。

実際、この本の目的は読んでない本について堂々と語る方法だから目次で語れたら理想なのだろう。

そしてこんな風に目次をコピーしてきて貼り付け語っている時点で僕はこの本を読んでいるのか読んでいないのかわからなくなってきている。

 

「読んだ」「読んでない」の定義

そもそも「読んだ」「読んでない」の違いはなんだろう?「読んだ」の定義は?と問いかけてくる本書。

 

読んだけれども内容を覚えていない本と、読んでいないけれども詳細に内容を知っている本とでは、どちらの本を“読んだ”と言えるか

 

「読んでない」のレベルが目次のⅠで書かれている通り、「読んだ」のレベルもあるかもしれない。特に「4.読んだことはあるが忘れてしまった本」について本人は読んだのに人に忘れてるから読んでないと一緒!と言えるのだろうか?読んだ本を忘れたら読んでないになるのか?むしろ「読んだ」状態とはどの状態をさすのだろうか。

 

本のストーリーをスラスラ言えたら「読んだ」ことになるのか?

盛り上がるシーンやラストが言えたら「読んだ」状態なのか?

本当に読んだのに全然とんちんかんな感想の人に「読んでない」って言えるの?

 

必ずしもそうとは限らない。現代は特にそうで、「Wikipediaで読んだ」状態になれる。結構入念にストーリーが書かれているページもあり、登場人物紹介も豊富だ。Wikipediaを読み込めばストーリーは言えるし落ちもわかる。登場人物がどうなったかも言える。

本を読んでないのに他人から期待される「読んだ」人っぽく話すことは可能だと思える。実際そういう人は何人か見てきた。レビューサイトも同様に読まないでもネタバレストーリーを知っていれば「読んだ」状態になれる。映画もアニメも同様だ。

 

 

 

実際に僕はネタバレあり感想をかいている。

 

tettyagi.hatenablog.com

これを読めば残穢のストーリーも落ちも感想も言えるだろう。感想文もかけるはずだ。「読んでない」のにだ。ここまでくれば本書のテーマもわかってくる。そして目次の意味合いも深くなってくる。

 

本なんか読まなくても本の内容にふれなくても批評はできるしレビューは可能。

むしろ本をダシにして自分の考えや思いを押し付けて行く。だってレビューや書評を読みに来る人は本読んでないから!みたいな考えができるようになる。

 

教養があるとは

本書は教養についても考察しまくっている。

教養があるとは、しかじかの本を読んだことがあるこということではない。そうではなくて、全体のなかで自分がどの位置にいるかが分かっているということ、すなわち、諸々の本はひとつの全体を形作っているということを知っており、その各要素を他の要素との関係で位置づけることができるということである。ここでは外部は内部より重要である。というより、本の内部とはその外部のことであり、ある本に関して重要なのはその隣にある本である。したがって、教養ある人間は、しかじかの本を読んでいなくても別に構わない。彼はその本の内容はよく知らないかもしれないが、その位置関係は分かっているからである。

本を沢山読んで物知りだから教養がある人間ってわけではなくて本に対する立ち位置を知っている人間が教養がある人間だと本書には書いている。

文脈を知るということか。本や物事の立ち位置を把握し自分の位置がどこか把握することが教養といえるのだろう。

 

屈辱ゲーム

本書に出てくるゲームに「屈辱」という遊びがある。

教養が高い人が集まり「読んでいて当たり前の本を、実は自分は読んでない」と告白するゲームだ。この告白された本を他の人が読んでいるほどポイントが高くなり勝者となるシステム。

いかに自分が教養がないと告白できるか、というゲームの恐ろしさと面白さ。

 

「読んでいて当たり前の本」とはなんだろうか?

日本で言えば「坊っちゃん」や「走れメロス」?「吾輩は猫である」とかかな。所謂日本文学と呼ばれている本は読んでて当たり前って感じはする。

もてラジリスナーなら「殺人犯はそこにいる」「桶川ストーカー殺人事件」「尖閣ゲーム」は読んでいて当たり前本だろう。映画だと「ロッキー」「プレデター」「オカルト」か。

僕みたいに教養がない人間なら堂々と「読んでない」といえるが、教養が高い人は中々言えない。僕も読んでて当たり前の本を読もうと思い世界の名著シリーズを読んでいるが周りで読んでいる人など誰もいない。論語とか読んだからって何か変わったこともないし教養が高まった気もしない。

 

tettyagi.hatenablog.com

 

本書は「読んでいて当たり前」の本を読んでいない後ろめたさを解消してくれる本だと思っている。たしかにあれだけ国家を語るのにプラトンを読んでないと……って気持ちはあるかもしれない。権力を語ってるのにリヴァイアサンを読んでないってバレたくないとか。

そんな後ろめたさは毒のように全身に広がり身動きがとれなくなってしまう。

しかし、読むには時間が必要だし何より読まないですむなら読みたくないレベルだ。本書はその毒を中和するかのような本だと勝手に思っている。だから読んで欲しい。そんな気持ちの人にこそ読んで欲しい。

 

薔薇の名前に隠されたトラップ

本書は「薔薇の名前」って本を題材に話をすすめる項目がある。僕は読んだこともなければ聞いたこともないが、世間一般には名書で有名らしい。ここで無教養と恥じるのは簡単だが本書を読んでるのでセーフだ。はやくみんな読んで。

 

「薔薇の名前」をラストまで語って話を締めくくっている。「薔薇の名前」とはこういうラストなのか~って思って「薔薇の名前」で検索してみると

 

全然違う話じゃない!!

 

ってびっくらこいた。作者は「薔薇の名前」を使ってトラップをしかけていた。これこそが「読んだ」「読んでない」を使った罠なのだ。

 

「あの女性は死んだよね~」

 

って言って小説内では死んでなかったとする。「いや、死んでないし。本当に本読んだの?」って突っ込むと

 

「死んだってのは比喩表現であって、物語から退場することは死を意味する。つまり、本当に死んだわけではないがえんやこらえんやこら」

 

みたいに言われたらどうする?むしろ書かれたらどうする?この本や映画気になってたんだよね~ってレビューサイトや批評を見て「なるほど~」って思ったラストや感想が本人が「思った」ことならどうなるんだろう。これほど本書が面白いと思った瞬間はなかった。最速で読んでくれ。マジで。他にも罠が沢山。実際には存在しない本まで語ってわけわからなくなる。でも、本書を読んでいる時は「現実にある本」だと思って読むので批評もレビューも気軽に誰でもやった方がいい!と思った。

 

 

読んで

作者はめちゃくちゃ本読んでいると思う。しかし、実際には読んでないかもしれない。読んでないが要点を抑えて本の位置と自分の立ち位置がわかっているので本を読むことが必要ないかもしれない。何を言ってるかわからねーと思うが本書を読んで欲しい。

 

必ずタイトルに裏切られ夢中でページをめくるはずだ。本好きのあなたにこそ勧めたい。読んでよかったし、この本について語りたくなる事間違いなし。

 

もちろんこのブログを読んで「読んだ」状態にしてもいい。

 

もてラジでも後半に語ってます。

moteradi.com

 

読んでいない本について堂々と語る方法

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薔薇の名前〈上〉

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殺人犯はそこにいる―隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件―

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尖閣ゲーム (幻冬舎単行本)

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